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随想録その13「将来の選択肢」

展示会を見にきてくださった若い世代の方に

「こういうお仕事は大変ですか?」

と申し訳なさそうに聞かれる事があります。

大抵そう言う方は色々なブースを回られて、長時間話されているので

「あぁ、将来に悩んでいるんだな〜。」

とピンときます。


お話しして、まずよく言われるのが

「美大に行っていない。」
「美大に行っているけれどレベルが低い。」

という事です。
なので必ず

「そんなものは全く関係ない。」

とお伝えします。
伝統工芸の世界は長いです。
体が健康であれば、80歳でも現役でいられます。

大学生は20代そこそこ。
残り60年近く、少なくとも40年はあります。
やる気があればいくらでも勉強してレベルアップできる。それがこの世界です。


お酒の席で40代50代の方でも

「いい大学出てないから…。」

などと言われる方がたまにいらっしゃいますが

「だったらこんなとこで飲んでないで、悔しいと思う分、家で勉強されたらどうですか?」

と私は思います。

「美大に行きたかったけど親が許してくれなかったから…。」

という話も聞きます。
いつまで親の呪縛に囚われているのですか?

大学を逃げ道にしてはいけません。
大学は過程に過ぎません。

大学を出てから残りの人生の方が遥かに長いんです。大学なんて小学校より短い時間です。
そこに人生を囚われる人がなんと多いことか…。


美大を出ているから言えることかもしれません。
美大を出ているからこそ言うんです。


美大の同級生の中で、美術に携わる仕事を続けている人は半分もいません。

そして、この仕事をする中で、美大を出ていなくとも素晴らしい作品を作る方を何人も見て参りました。


まずは、そう言う
「良い美大に行っていないと…」
という思考を捨てることです。


その上で最初の質問に答えるならば…


「こういう仕事はとても大変です。」


物を作るのが好きと言うだけならば、生活を保障される最低限の賃金で良いので、安定したお金の入る仕事をして、空いた時間に趣味としてモノづくりをする事をお勧めします。


今、嗜好品を売ることはとても厳しい時代です。
これは1〜2年で良くなるものではないと思っています。


腕を磨いて物を作ることは、職業にしなくてもいくらでもできると思っています。


私は「毎朝同じ場所に通い続ける」と言うことに非常にストレスを感じるタイプです。
出来ないわけではなく、朝早くから遅刻もせずしっかり通えるのですが、頑張り過ぎてしまって自分のメンタルコントロール出来なくなってしまうんです。
何ヶ月、何年と終わりが見えれば出来るのですが、終わりの見えない就職は、20代そこそこの私には苦痛で、選択肢にありませんでした。


そして「加賀象嵌で食べていく!」という強い信念。

この二つが重なって、加賀象嵌を職としてきましたが、正直誰にも勧めません。


職にすることによって、売上が落ちれば材料を買うこともままならなくなり、廃業を余儀なくされる可能性もあります。
実際職人業界でそう言う方も目にしました。

私の仕事に限って言えば、金属の価格が上がり過ぎてしまい、材料を仕入れるにも勇気がいります(苦笑)。


以前こちらのブログの随想録にも書きましたが、好きを仕事にするということは、思った以上に大変です。

様々な嫌な出来事を、好きという思いだけでカバーしていくことになります。
逆にいうと、全てをカバーできるくらい好きじゃないと続きません。


厳しいかもしれませんが、悩んで色々周りに聞くくらいの気持ちだったら、職にはせずレベルの高い趣味にする事をお勧めいたします。

おそらくですが、職に出来る人というのは、人に聞くまでもなく「これで食べていく!」という強い意志のある人だけだと思います。


そして、今は職にする時代ではないと思っています。
YouTubeやInstagramなど、発表の場が沢山あります。
生活の心配をしなくて良い金銭状況で制作に勤しむ方が、心にもゆとりができますし、仕事と違って締め切りがない方が、ゆっくり良い仕事ができます。


伝統工芸を守る方法は、それを職にすることだけではないと思っています。
これからはそういう時代になっていくと思います。


夢のない話で恐縮ですが…

進路に悩む若い世代の方の参考になれば…。
そして、お子さんがこういう業界に興味を持っているようであれば、参考までにお伝えしてみてください。

by pa-pen | 2022-03-09 11:51 | 随想録 | Comments(0)

金沢の稀少伝統工芸である加賀象嵌のお話を中心に、その他趣味のお話もちょろちょろと…。


by pa-pen